自分らしく旅を愉しんでいる女性たちに、こだわりの持ち物を見せてもらおう!という連載。第6回目となる今回は、人間の手でこの世に生み出された“もの”に魅せられ、世界や日本の古民芸品などを中心に扱うお店「FUCHISO」を営む小松綾子さん。世界を飛びまわれるなんて夢のような仕事、と思いきや「毎回、自由時間が全然なくて、笑」と微笑む小松さん。本気モードの旅の荷物について聞きました。
※この記事は、旅と暮らしをつなぐ雑誌『BiRD』で連載中の拡大版です
photo NOZOMI KATO
text BiRD
小松綾子さん(FUCHISOオーナー)
手工芸品のある場所ならどこへでも
外苑前駅を降りてワタリウム美術館を通りすぎ、ひとつ、ふたつと歩いた先。路地にぽつんと立つ看板をたよりにビルの細い階段を登っていくと、たどりつくのが「FUCHISO」。世界のさまざまな国から集められたアンティークものが、肩を寄せ合って並んでいます。ふと目に止まったガラスのコップに手をのばすと、オーナーの小松綾子さんが声をかけてくれました。
「この2つのグラスはフランスの教会にあったキャンドルホルダーなんです。19世紀につくられていて、まだ吹きガラスの時代だったからよく見ると形も少し歪でしょ? でも蝋燭をいれたときに、炎の揺らぎに温かみがあっていいんです。人によってはコップとして使ってくれるかもしれないと思って、中もきれいに手入れしています。隣の青い水玉のミルクピッチャーはフランスの19世紀後半のもの。その奥のにある茶色いピッチャーはルーマニアの焼きものですね」
「ここにあるのは中国の山間部に暮らすトン族の布。お祭で被る頭巾布です。傷みがあった部分を解き、ハギレでボタンをつくりました」
小松さんの言葉に耳を傾け、道具に手を触れていると、このものたちが生まれた土地やその時代の空気に思いを馳せて、一緒に旅をしているような感覚になる。そして、生まれた場所も時代も一つひとつ違うはずなのに、どれも不思議と調和がとれて凛として棚にある。
「いまの暮らしにも合うもの、普段の生活を豊かにしてくれるものを、と思って選んでいます」と、もの選びのルールを教えてくれた。手仕事のある場所であれば、国を特定せずに飛んでいくのだとか。お店には、フランス、オランダ、ベルギー、ルーマニア、中国、インド、インドネシア、日本、など古今東西あらゆる土地のものが詰まっている。買い付けの旅も楽しそう!と思いきや、アジアであれば2〜3日、ヨーロッパの場合は2〜3週間で何カ国もまわる弾丸トリップなんだとか。
「一人でやっているから、お店を長く空けられないんです。だからせっかく海外に出ても、いつも自分へのお土産はなくて(笑)」
ハードな買い付けの旅に欠かせないもの
そんな小松さんの仕事の旅に持っていくものを聞いてみました。
「ちょっと本気モードで可愛げがない持ちものかもしれませんが(苦笑)。必ず持っていくのがメモ帳。買い付けの値段、通貨レートを書き取ります。それといろんな国に行くので、買い付けのときは英語だけじゃなく筆談でコミュニケーションをとることも多いんです。筆談のときはメモがあると便利だし、その場でページをちぎって現地の人にメモを渡すのにも都合がいいんです。あとは手巻きの時計。その国に到着して自分の手でカチリと時間を合わせると、自分のスイッチが入って引き締まるので。それと愛用の財布は欠かせませんね。これは日本の東北の漁師が使っていた古布とレザーを自分で選んで、工房で縫製してもらったもの。大きいので現金だけじゃなく、パスポート、宿の鍵、ケータイも入るんです。ボタンでほかのバッグに取り付けられるようになっているので、トートバッグにしっかり括りつけて使っています。買い付けに集中したいので、防犯対策にも気をつけています。マーケットは人が多いですからね」
「リラックスグッズも持っていきますね。朝、宿を出てからずっと歩きっぱなしになるので、夜戻ってきたらマッサージオイルで体をほぐしたり、お風呂にバスオイルを入れて湯に浸かったり。できるだけ次の日に疲れを持ち込まないようにしています」
そんな小松さんのハードな旅をサポートしてくれるのが、カリマーのバッグたち。いい具合に使い込まれたカリマーのトロリーバッグに加えて、最近は新たにバックパックも買い足したという。
「いつも機内持ち込み用と預け荷物用のトロリーバッグを2台、バックパックを1つ背負って仕入れの旅に出かけます。カリマーの機内持ち込み用のバッグは、もう7年くらい使ってますね。このバッグにつけている鳥のキーホルダーも自作なんですよ。アンティークの布の端切れとレザーを使ってつくっていて。ただ1代目は残念ながら旅の途中でどこかに旅立ってしまって……。今つけている白い鳥は2代目なんです。あとは私はとてもバッグ好きなので、バッグを自分でオーダーしてつくったりもしています。このショルダーバッグは、ウールとシルクで織られたヴィンテージの布をフランスで買い付けて、国内の革工房で縫製してもらいました」
大変な仕入れの旅の話もどこか楽しそうに話してくれる小松さん。そもそもお店をはじめようと思った理由を教えてもらいました。
「私、“もの”が好きなんですよね。世の中には素晴らしいものがいっぱいあって、それを誰かに伝えたいと思うんです。ちゃんと作られているものであれば、道具って人間より長生きするものが多いですからね。それを次の使い手に渡したい。ものを一瞬預かるような感覚ですね。それに、自分の足で買い付けをしているのは、“もの”が生み出された風土や文化、そこに暮らす人びとの気質、宗教観などを肌で感じたい、という部分も強いです。だからタイトなスケジュールの合間に、建築物を見たり、民族博物館に行ったり、市場に繰り出して言葉は解らなくても指差しで土地のものを買って口にしてみたり。“もの”として持ち帰ることはできないのですが、そうした素敵な出会いがあるから旅は楽しい」
店名の「FUCHISO」にもそんな彼女の思いが込められているという。
「風を知る草、と書いてフウチソウという植物があるんです。“もの”を通して自分以外の人にも世のなかを知ってもらえたらうれしいですね。そして、自分が伝えたものが誰かの手に渡ったあとも、野に生える草のようにその人のもとで根を張って使ってもらえたら、と思ってこの名前にしたんです」
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旅の持ち物
ビーチサンダル/宿で履き替える用
白トートバッグ/現地のマーケットで買い付けする際に使うバッグ。フランスのポストマンの郵便袋をリメイクしたもの
ヘアバンド/インドの民芸、カンタを利用してつくったもの。市場の買い付けに合わせて、朝早く宿を出ることも多いので、寝グセのカモフラージュに
黒パーカ/服は基本的に目立たない色で、シワになってもよい素材を選んで持っていく
ショルダーバッグ/宿を出てちょっとした食料を買いに行くのにはこちらのミニショルダーを使う
グレーストール/こちらもシワになってもよいものを。ぐるぐる巻いてトロリーバッグに詰め込む
リラックスグッズ/木のツボ押し、無印良品のバスオイル、ヴェレダのマッサージオイル
古布の財布/ボタンが付いていて、 ほかのバッグにつけてスリ対策
手巻き時計/メンズライクなドイツ生まれのユンハンスの時計
メモ帳/無印良品のメモ帳。千切りやすいルーズリーフタイプが便利でリピートしている
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今回のおすすめアイテム
[ ランクス 28 タイプ1 ]
日帰り登山や簡単なトレッキングで活躍する本格ライトウェイトトレッキングモデル。小型で軽量ながら、2気室で構成されていて、荷物のパッキングや出し入れがしやすい。背面には新設計の「形状可変バックプレート」を配し、ボディシェイプの見直しなど、細部をアップデートされている。ポイント
- 高強度ナイロン使用で耐久性に優れている
- レインカバー内蔵で雨がちな地域も安心
- フロントポケット付きで薄手の服などの出し入れが便利
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小松綾子(こまつ・あやこ)
1976年、長野県生まれ。女子美術短大の造形デザイン科を卒業後、インドネシアの輸入インテリア会社や骨董店に勤務。2006年より下北沢で「FUCHISO」を開店。店舗が入っていた露崎館の老朽化のため、移転。2009年より外苑前の現在の場所にお店をオープンしている。小松さんが足を運んで買い付けてきた世界のアンティークのものを中心に、国や時代を問わず、つくりのよいものを集めたお店を営む。
http://blog.goo.ne.jp/fuchiso