昨年の秋、学生時代から通い詰めた大好きな土地への移住を果たしました。山梨県北杜市、南アルプスの山々や八ヶ岳を有し、瑞牆山をはじめとする日本有数のクライミングエリアも密集するアウトドアのメッカです。今回はその中でも、私の好きな甲斐駒ヶ岳について紹介したいと思います。
標高2967mの甲斐駒ヶ岳は、白く美しい花崗岩の岩山で、山梨県北杜市と長野県伊那市にまたがる日本百名山のひとつです。
古来から山岳信仰の対象となっており、厳しい入山規制がありましたが、1816年に一人の修験者により開山されています。初登頂のルートは、今も「日本三大急登」に数えられている長く険しい尾根、「黒戸尾根」です。
黒戸尾根は標高差2200m、その道のりは10km以上あり、コースタイムでは9時間10分の健脚向きコースです。
私はこの黒戸尾根からしか登ったことがありません。北沢峠側からなら山頂まで4時間半ほどで登れるようですが、南アルプス林道はバスに乗る必要があり、また冬期は長い長い林道歩きをする必要があります。黒戸尾根の玄関口である尾白渓谷へはマイカーで入れます。引っ越した今では、登山口までは車で30分という距離です。
私は四季を通じて、この甲斐駒ヶ岳に何年も通っています。夏は沢登り、2017年からは黒戸尾根の山岳医療パトロール活動、秋にはトレイルランニングにロッククライミング、冬はアイスクライミングなどなど。この山域にはたくさんの魅力的な”課題”があり、何年通ってもまだやりたいことや行きたいところが多く残っています。
暑い夏は沢登りも楽しめます。黄蓮谷や尾白川本谷のような沢中泊を楽しめるルートもあれば、鞍掛沢のような日帰りで楽しめる沢もあります。鞍掛沢は初級者でも挑戦できるくらいの難易度で、花崗岩の美しい沢を満喫できるデート沢です。
そして無雪期の黒戸尾根といえば、2年ほど前から挑戦をはじめたトレイルランニングでのタイムアタック。現在のベストタイムは、尾白渓谷駐車場から山頂まで3時間7分です。高所順応を含めた身体作りをしながら、水が少なくて済む涼しい季節を狙って、いずれは3時間切りをしたいと思っています。
そもそも黒戸尾根を走ってみようと思ったのは、山岳医療パトロール活動で毎年夏から秋に黒戸に入るようになったことからでした。ここ数年はコロナ禍により登山口での声かけ活動のみとなっていますが、以前は七丈小屋に宿泊して山頂までパトロールをしたり、山岳医療に関するミニレクチャーなども行っていました。
何度も登っていると、当然天気の悪い日もあります。そんな日に登ると、とっても嬉しいご褒美が!
なんとも愛くるしい雷鳥たちには8合目〜9合目でよく出合えます。山頂からの展望が期待できない日でも、適度な悪天候予報なら登ってみるのもアリですね。
そして、私がこの山域で1番の目標としているルートがあります。Aフランケ「スーパー赤蜘蛛」というアルパインルートです。
黒戸尾根の南側に深く切れ込んだ赤石沢本谷は、その切り立った側壁にいくつものアルパインルートが引かれています。最も山頂側から数えて3番目の岩盤にあたるダイヤモンドフランケAに「スーパー赤蜘蛛」はあります。
アルパインルートといっても、「スーパー赤蜘蛛」は5.11+を含むクラッククライミングのマルチピッチルートです。はじめて挑戦した2015年を皮切りに、数年おきに1度ずつトライし続けてきました。
現在の目標は、核心部となる「スーパークラック」と呼ばれる5.11cと5.11aのひとつながりのクラックを、途中でピッチを切らずに下から上まで70m一気に登り切ること。持参するギアの数は通常の倍近くなるし、テクニックも持久力も忍耐力も高いものを要求される非常にタフな課題ですが、数年以内に必ず達成したいと思っています。
そして冬になると、急峻な岩山は一際美しい姿となって私たちを魅了します。お隣の八ヶ岳より、スケールも難易度も少し上の冒険的なアイスクライミングルート、冬期登攀ルートを登りたくてうずうずしているクライマーたちを迎え入れます。
黄蓮谷は氷の回廊となり、
大武川や篠沢にも美しく大きい氷壁が現れます。
そして、南アルプスと富士山を一望できる山頂からの眺めがまた格別です。
こんな魅力いっぱいの甲斐駒ヶ岳。今では新居のリビングから毎日眺められるようになりました。山に囲まれた暮らしはとても豊かです。東京から毎週通っていたこの土地を、これからはもっと深いところまで味わい尽くしていきたいと思います。