前回のvol.6 二子山以降、冬季はスノーボードに没頭しすぎるあまり、気が付けば登山からめっきり遠ざかっていたマツです。今年は「槍ヶ岳」になんとしても登りたい…!と熱い想いはあるものの、決してたやすい山ではありません。体力作りはもちろん、ウェアリングやパッキング技術も修得したい、さらに3日間にもわたる山行での雨対策も実践しておきたいと、登頂に向けてやらなければならないことは盛りだくさん。
ということで、今回は「槍ヶ岳山行」に向けたトレーニングハイクとして、「雲取山」が候補に上がりました。「槍ヶ岳山行」を意識し、様々なシチュエーションを想定。自らにいくつかの課題を課すことにしました。
1つめは、雨を想定してのレイン対策ギア類の携行および、雨を意識したパッキングです。2泊3日の山行では雨に降られる可能性が高いのですが、雨のなかでのテントの設営や行動などの経験がほとんどないため、シミュレーションをすることにしました。
2つめは、大型リュックを使わずに中型リュックを使用すること。これは今までテント泊=大型リュックという考えだったのですが、2泊3日の山行では今まで以上に荷物が増えることが考えられます。とはいえ荷物は軽いに越したことはありません。今のうちに極力無駄な物を省き、制限のあるなかで工夫して荷物をまとめる技術を身に付けたいと考えました。
そして3つめはコースタイムを意識した山行です。今までは長くても1泊2日の山行だったので時間設定も何となくで済んでいたのですが、2日以上の山行となると計画的に行動しないと目的のコースを辿ることが出来なくなってしまう可能性が高くなります。そのうえ、最悪危険地帯で日没なんてことになってしまう恐れもあります。そうならないためにも、今回の山行は予め設定したコースタイムを強く意識し行動することにしました。
今回の山行で使用するリュックは〈ridge 40 type2〉。40Lという中型リュックのため、雨を想定したテント泊を想定した荷物のパッキングは難しく、相当悩まされました。ギアを見直したり、入れ方を変えたりしてなんとか準備完了。
「槍ヶ岳」に行く際も公共交通機関の利用を予定しているので、今回の山行も電車とバスを使いました。車でのアクセスと違ってあれこれ余分な荷物を持って行くことができないため、そういった制限のかかった環境に慣れることも重要な要素なのでは、と考えたのです。そう、家を出発した時点から登山は始まっているのです! ちなみに下山後の着替えなどは、奥多摩駅のコインロッカーにデポしました。
さて、電車を乗り継ぎ、奥多摩駅に到着。バスターミナルには、すでに長蛇の列が出来ていました。「かもさわ登山口」を目指します。
程なくして「かもさわ登山口」に到着し、いよいよ雲取山に向けて登山開始です。入山時はすっかり春の陽気。日差しのあるところでは少し暑いくらいです。まさに春山という雰囲気を満喫しながら歩き始めました。
今回背負った〈ridge 40〉は、カリマーで長年愛され続けているモデルだけあって、抜群のフィット感が魅力。さらには、実際に背負ってみると気づく便利な機能1つひとつが抜かりなく、40Lとは思えない充実感がありますね。
オーバーペースにならぬように気をつけながら樹林帯をひたすら登り続けます。登り始めで身体がまだ馴染んでいないのと、ブランクの影響もあり大腿筋が早くも悲鳴をあげます。小休止を交えながら身体が馴染むまで我慢の登山です。登っていて強く感じたのが、〈canyon pants〉のストレッチ性です。足上げで時の引っかかりはパフォーマンスの低下につながりますが、驚きの伸縮性のおかげでスムーズな足運びができました。また耐磨耗性にも優れるので、足場の悪いところでも躊躇なく踏み込んでいけたのはよかったです。
入山開始から3時間弱。七ツ石小屋に到着です。ここでランチ休憩を取りました。樹林帯から少しでた尾根沿いにあるので見晴らしはGOOD。今回は見ることは出来ませんでしたが富士山も望めるそうです。3時間前まで見上げていた山々がもう同じ目線です。樹林帯から解放されしばらく眺望を楽しみました。
食後は、生まれて初めて挽き立てのコーヒーを自分で淹れてみました。肝心の味は…登山同様まだまだ修行が必要のようです(笑)
七ツ石小屋を後にすると残雪が現れ始めました。軽アイゼンを持参していたのですが、凍結箇所がなかったために使用しませんでした。ただ滑りやすい場所もあるので慎重に歩を進めます。
途中雪はあるものの、割となだらかな尾根を気持ち良く進みます。動くと汗ばみ、止まると肌寒い気候なのですが、〈trail fleece〉は速乾性と保温性を兼ね備えているので、アウターとしても着れますし、肌寒く保温効果をより高めたい時はミドルレイヤーとしても使えるので、長いシーズン使用できるので1着持っているととても重宝します。
本日のテント場、奥多摩小屋に到着! しかし、さっきまで晴れていた空に雲がたちこめ、気温もグングン下がり始めました。天気が怪しいこともあり、今日のうちに山頂を目指すことに。
雲取山頂直下まで来るとまさかの雪。そして、山頂に辿り着いた時にはリュックサックの雨蓋にうっすら雪が…。残念ながら辺りは雲に覆われてしまい眺望は全くありません。温度計を見るとほぼ0℃! 登り始めたときの春山はどこへ!? 東京最高峰とはいえ、2000mともなれば別世界なのだと実感しました。
山頂を後にし、奥多摩小屋まで来た道を引き返します。雪はますます強まり、あたりも暗くなってきているので急いでテントを張ります。
この時本当によかったと思ったのが、事前に雨対策用にリュックサック内の荷物をパッキングしていたこと。絶対に濡らしたくないアイテム(シュラフ、ダウン類に着替え等)と、濡らしても支障のないアイテム(テントやアウター類、食材等)を別のスタッフバッグに入れておけば、リュックから荷物を出し入れする際にあれこれ心配することがありません。雪とはいえ、今回の山行趣旨に基づいたよいトレーニングとなりました。
一時的な雪かと思っていたのですが、夜になっても止まず、夕飯もそれぞれのテントで済ませました。夕食後外に出ると、雪にプラスして霧も発生しており、辺りが白く霞みがかっていました。先輩に声を掛けられ自分たちのテントのほうに目をやると、霧にボワっとテント内のライトが灯ってなんとも幻想的な光景…。晴れた時には見れない光景ですね。天候が良くなくても特有の山の楽しみ方があるんだなと、再認識しテントに戻りました。
就寝しようとシュラフに入ったはよいのですが、寒さの影響で全然寝付けません…。後々わかったのですが都心でも今シーズン1番の気温の下げ幅だったようです。悪条件を想定してのトレーニング山行。当たりと言えば当たりなのですが、実際その環境に直面するとやはり辛いものです(泣)。寒さとの格闘の末、結局まとも寝れずに起床時間を迎えます。外に出るとテントは雪で真っ白にを覆われバリバリに固まっていました。
- 雪が付着したままシートを畳んでも、大きさが増してリュックに入りきりません…。寒さに震えながら固まった雪を払い落として畳むしかありませんでした。早朝ということと寒さの影響から動きが鈍く、作業が捗りません。いつもの撤収時間の倍以上かかった気がします…。雪だからまだ濡れたりはしないのですが、もし大雨で風も強かったら…と思うとゾッとします。対策はもちろんですが、経験もしていかないとと思いました。
撤収のもたつきがあり出発時には明るくなっていました。2日目はここから一気に奥多摩駅まで下っていく長丁場。気合いを入れて歩き出したのですが、あたりは前日の景色から一変。白銀の世界に様変わりしていました。急ぐ気持ちはどこへやら、木々に付いた雪景色を楽しみながらのスタートとなりました。
暫く下って、山側を見返すと昨日登った山頂付近は雲に覆われその姿を確認する事は出来ませんでした。晴れ渡ってそこそこ眺望もあるのですが、雲がかかった雪景色はこの季節ならでは。予期せぬ絶景ハントとなりました。ちょうど東京では桜の開花が注目されている季節。雪山にいるのがちょっと不思議な気分です。
雪が降っているのはテントを張った標高2,000m付近だけかと思いながら下っていたのですが、その予想は裏切られ、下れども雪は降り、雪景色はどこまでも続きます。
- 下り始めて2時間半ほど。途中高丸山のピークも踏んで鷹ノ巣山避難小屋に到着。ここで簡単な朝食をとりながら休憩。小屋内にあったノートブックには「4月で雪が降った」と記されていました。春だからとはいえ東京の山でもまだまだ冬の装備が必要ですね。
さらに下って行くと雨混じりの雪に変わりましたが、アウターで〈phantom jkt〉を着用していたので安心でした。雨水を防いでくれるのはもちろんですが、ラグランスリーブ設計のためショルダーハーネスとの干渉が無く機動性にも優れます。また、〈canyon pants〉の撥水性も非常に優れており2日間通して、濡れてベタつくことはありませんでした。
長い下りで体力の消耗は著しかったのですが、転倒には十分気をつけ、足の踏み位置などには十分配慮。さらに効率的に小休止を挟みながらコースタイムを外さないよう、下っていきます。
体力的に疲労が蓄積している状況であっても〈ridge 40〉のフィット感は衰えず、身体への密着感が高く一体となって背負える感じは、こういった状況で大きなサポートになります。
六ツ石山分岐を過ぎた辺りから雨脚も弱まり、視界も開けてきました。疲労はかなりたまってきていましたが、なんとか下山。途中ランも交えたこともあり設定したコースタイムより1時間ほど短縮できました。
今回の「雲取山」山行。予報に反してあいにくの天気となり、晴れ渡った眺望などは望めませんでしたが、元々の企画意図には十分マッチングしたトレーニングとなり、「槍ヶ岳」前によい経験が出来たと思います。レイン対策のパッキングなどはより実践レベルでの経験が積めましたし、携行する荷物も1泊2日の山行であれば40Lに収めることも可能だということがわかりました。
ただし反省点もいくつか見つかりました。防寒インナーやウォーム系アクセサリの携行を怠ったため、想定以上の気温の冷え込みに対応出来なかった点がひとつ。また、今回の山行で食料を全て消費しきってしまったので、万が一に備えもう少し携行した方がよさそうだなと思いました。今回はコースタイム内に行動できましたが、槍ヶ岳への道のりはもっとハード。長時間の山行での山での歩き方、足の置き方など、疲労した状況での足の運びといったスキルをもっと積むべきだとも感じました。
下山後、温泉に浸かりながら先輩と、今回のまさかの雪に見舞われた話や、「槍ヶ岳」に向けた話で会話が尽きません。次回いよいよ「槍ヶ岳」に挑戦できるのか? お楽しみに!
出典:山と高原地図
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【ギア紹介】
●リュックサック(ridge 40 type2):カリマーのリュックに対する考え方の象徴的な不朽の名作モデル。今シーズンからフルモデルチェンジしその全てが進化。
●シェルジャケット(phantom jkt):機動性に優れた高機能レインジャケット。
●パンツ(canyon pants):幅広いアクティビティに対応するトレッキングパンツ。伸縮性、耐摩耗性、撥水性に優れる。
●ダウンジャケット(vinson down parka):優れた保温性を持ちながら、行動にストレスを与えないダウンジャケット。
●ダウンパンツ(ultimate down pants)軽量性・保温性に優れ、コンパクトに収納も可能なダウンパンツ,(compact pants):とっても軽くて、はき心地が最高です。
●アクセサリ(rain 3L cap):3Lの防水素材を使用したレインキャップ。
●レインパンツ(boma NS slim pants (unisex)):canyon pantsの撥水性の良さから今回は使いませんでしたが、レインジャケットと合わせて必携です。
●ポーチ(preston pouch):ベルトループを備えた小型のポーチ。すぐに取り出したい小物の収納に便利で、ショルダーとウエストの2wayで使うことができます。
●ストック ●軽アイゼン ●テント:MSRのハバハバ●シュラフ:NANGAのUDD BAG 280DX ●マット:サーマレスト ●小マット:サーマレスト ●トラベルシーツ:COCOON ●枕:sea to summit ●スタッフバッグ3サイズ:sea to summit ●エマージェンシーシート ●ヘッドライト:milestone ●コーヒーミル ●ドリップコーヒーセット ●ガスカートリッジ、コッフェル ●食器(EcoSouLife) ●バッテリー(OUTDOORTECH):ガジェット類の充電に必須携行品。●カメラ ●水500ml×2 , 3食分ドライフード , 粉末スープ , 2日分行動食