南緯32度、日本との時差12時間。日本列島の裏側、地球儀をぐるりと半周回した場所、世界最長8,000kmアンデス山脈の旅へ。日本の地平線の下、南半球の星空(宇宙)を眺めながら、南米大陸最高峰アコンカグア峰(6,960m)山頂を目指します。
年の暮れの夕暮れ時。日本との時差12時間の時刻を腕時計で確認しながら、20世紀最後の夕日をひとり眺めます。アンデス山脈の裏側である日本列島では大勢の皆さんが、真冬の寒さに耐えながら21世紀最初の「初日の出」を待っている頃です。太陽が地平線に沈んでゆくと同時に、日本では地平線から太陽が昇ってくることでしょう。
夕映えで岩壁が茜色に輝きます。高校生の頃に見た、冒険家・植村直己さんが撮影されたアコンカグア峰の色と影が全く同じです。自分でも驚きましたが、その光景に不意を突かれてしまい涙が流れました。自分が意識してる以上に、アコンカグア峰は特別な峰であることを改めて教えてくれました。登山を始めて36年になりますが、後にも先にも登山で涙が流れたのは、この時の一度だけです。
アコンカグア峰BC滞在は、山小屋でゆっくり過ごします。
世界各国の山好きが大集合です。
今晩は大晦日。夕食はスペシャルメニューを用意したと、山小屋の主人からの発表で、食堂は盛り上がります。
夕食を済ませたら、明日からの登山に備えて解散、そして消灯…と 、なるわけがありません。数時間後には新年を迎えます。大量のアルコールが振る舞われ、豪快な笑い声が響きます。酔えばダンスも自然に始まります。
山小屋の主人からの提案で「国別対抗歌合戦!」が始まりました。
世界各国の皆さま、その容姿のイメージ通り、歌のお上手なこと。その美声に、チーム日本へのプレッシャーが高まり、酔いも覚めます。
チーム日本の歌唱力は予想通りの結果でしたが、皆さんが知っている歌を披露したので大合唱になり、「これからみんな一緒に山頂を目指そう~!」みたいな一体感が感じられました。酔いも手伝って、こんな楽しい大晦日を過ごせたのだから、天候に恵まれず山頂まで到達できなくても充分満足、と思いました…。
21世紀の幕開け、いよいよ新年を迎える時が来ました。再び山小屋の主人からの提案で、外に出てみんなでカウントダウンをすることに。
サプライズです。新年を迎えた、カウントゼロを叫んだ瞬間、打ち上げ花火が次々とあがります。
アコンカグア峰BCでの打ち上げ花火。花火が開くたびに、BC全体が鮮やかな色に浮き上がる光景、響き渡る爆発音。その色と音が現世のものとは思えません。「国別対抗歌合戦!」での大騒ぎから一変、花火の破裂音しか聞こえません。打ち上がる花火を見上げながら、新年への誓いや願いをそれぞれ思い浸っているようでした。