世界で初めて世界五大陸最高峰に登頂した冒険家・植村直己さんの活躍に、どきどき、はらはら、わくわくしていた小学生。通学路の世界しか知らない子どもにとって、スーパーヒーローです。その冒険家の遭難を知った時、「世界五大陸最高峰に登ってみよう」ぼわっと頭の中でそんな思いが広がりました。「憧れ」から「挑戦」に変わった瞬間、高校1年生の時でした。
天候も安定しており、気持ちにも余裕が出てきます。休憩のたびに暇そうにしているガイドに声をかけては、記念撮影に付き合ってもらいます。
ストレッチャーのようなもので高山病で具合の悪くなった登山者を標高の低い場所に急いで運んでいる光景を時々見かけます。明日、初めて標高5,000mの世界に踏む込むので苦しそうな方々を見かけると不安な気持ちになります。登山道とは思えない水平な歩道を黙々と歩いていると、山に登っていることが不思議な気持ちになります。
標高が高くなると空の様子も変わってきます。キリマンジャロ峰の雄大な景色によるものなのか、雲ひとつひとつのスケールが雄大で、空を眺めているだけでも時間を忘れてしまいます。地上の景色だけを眺めて単調な風景と思っていた自分の視野の狭さに恥ずかしくなります。
素敵な風景の中を歩き続ければ、振り返っても素晴らしい風景が広がっています。平地のような道を歩きながら、これから世界の山々にも行ってみようという意志が、強くなってゆくのを感じました。
ガイドと歩きながら、アフリカの言葉を教えてもらいます。お世辞でも、褒められると嬉しくなります。明日は山頂に向かうため、ゆっくり話す時間などありません。登頂後は各自ばらばらに下山するため、ガイドとゆっくりお話し出来るのも、今日が最後と思うと寂しくなります。
マウェンジ峰山頂から眺めた、キリマンジャロ峰の風景を想像してしまいます。
ようやく坂道となった登山道を1時間ほど歩き続けると、本日の野営地、キボハット(標高4,703m)に到着しました。最終キャンプ地、どのパーティーも明日は夜明け前の出発なので、午後の早い時間ですが忙しく夕食の準備を始めています。
リーダーからの指示で、少しでも体を高所に慣らすため、夕食まで散歩することになりました。キリマンジャロ峰を間近に見上げ、改めて山容の大きさに驚きます。登山を始めた高校1年生の時、冬季の富士山に単独で挑戦するために購入した本革の安価な登山靴。愛着のある登山靴でアフリカ大陸最高峰の山頂へ向かえることに嬉しくなります。冬富士は八合目までしか登れませんでしたが、もの凄い達成感に包まれ、冬山の魅力に引き込まれた時の気持ちを、この登山靴がいつも思い出させてくれます。
キャンプ地から30分程度、登り続けます。わずかな標高差でも風景が変わり、美しさが増します。
夕食を済ませたら、今晩はすぐに就寝です。同じテントの登山の先輩は、いつものように晩酌を始めました。この標高でも普段通りお酒を楽しまれています。ガラスボトルではなく、フィルムケースにお酒を詰め替えて軽量化を図っているベテランの工夫に感心します。