世界で初めて世界五大陸最高峰に登頂した冒険家・植村直己さんの活躍に、どきどき、はらはら、わくわくしていた小学生。通学路の世界しか知らない子どもにとって、スーパーヒーローです。その冒険家の遭難を知った時、「世界五大陸最高峰に登ってみよう」ぼわっと頭の中でそんな思いが広がりました。「憧れ」から「挑戦」に変わった瞬間、高校1年生の時でした。
振り返ると、冷や汗を感じながら駆け足で走り抜けたギルマンズポイントからの雪道が続いています。時々滑りながら登って来た行きの道を、帰りは同じ道を、時々滑りながら下山することになります…。
正面にはビルの高さほどの氷の塊、氷河が続いています。登山の途中で給水した、最終水場の湧水は、この氷河から溶け出した水です。
最後の緩い坂道を少しだけ登れば、山頂はすぐそこ。
雪原が広がります。
この標高に順応したのか、とても快適です。体調良し、天候良し、風なし。時間に追われているわけではないので、現地ガイドを待たせてアフリカ大陸で唯一の雪原を、ゆっくり楽しみます。
アフリカ大陸最高峰キリマンジャロ峰の最高地点、ウフルピーク(標高5,895m)に到着。28年前、植村直己さんもここに来ました。
お世話になった現地ガイドに感謝の言葉を伝えた後、一緒に記念写真を撮ります。彼にとっては、いつもの場所での、お決まりの作業かも知れませんが、私にとってはとても大切な瞬間です。
素敵な場所ですが、ここに再び訪れることはありません。何度も振り返りながら、氷河の迫力を記憶に残します。
登頂後は、各自ばらばらでホロンボハットまで一気に下山します。キボハットを過ぎれば、ひたすら平坦な道が続きます。道は一本道。歩くペースが同じなので、フランス人の女性と一緒に歩くこととなりました。フランス語など話せませんが、言葉の壁など関係ありません。お互い母国での日常生活のことを話しながら、下山の時間を楽しみます。
またしばらく、ひとりで歩いていると、今度は現地ポーターの少年と一緒に歩くこととなりました。スワヒリ語など話せませんが、言葉の壁など関係ありません。お互いこれから迎える新年は何して過ごすか話しながら、下山の時間を楽しみます。
「何して過ごすの?」と尋ねると、「家族みんなでコーラを飲みながら過ごすんだ。いいだろー!じゃーなぁー!」みたいなことを嬉しそうに話しながら、数メートルほどスキップした後、走って去ってしまいました。この少年の爽快な表情がとても印象的で、5分ほどしか一緒に過ごしませんでしたが、素敵な思い出がひとつ増えました。一期一会の徒歩旅です。