「いつかは8,000m!」 登山を始めた高校1年生からの、自分自身への合い言葉。アフリカ大陸、南米大陸、ヨーロッパ大陸、北米大陸への遠征を経験し、いよいよアジア大陸・ヒマラヤ8,000m峰に挑戦です。
2週間BCを拠点に、BC→C1往復、C1→C2往復、C2→C3往復を繰り返して高所順応を行います。フィックスされている固定ザイルを頼りに、C1標高5,750mからC2標高6,350mへ進みます。マナスル峰登頂の成功率が低い原因のひとつに、天候が安定しない山域であることがあげられます。晴天が何日間も続くことはありません。また、わずか数分で快晴から降雪という時もあります。
その天候の変化から、体感温度も急激に変化します。必要以上の発汗は体力を奪い、逆に寒さを少しでも我慢してしまうと、風邪を引いて体調を崩します。ザイルを組む仲間に迷惑をかけないよう、スピーディにウェアを替えるスキルと、これから想定される環境変化への対応力が求められます。
その日、その時の気象条件に左右されるため、高所順応の進み具合は、計画通りに進みません。快晴でも、雪崩の危険性が予想される積雪量と判断されれば、行動日が停滞日に即変更。そこで生じた計画の遅れと疲労の影響によって、高所順応のプログラムが変わるため、不安が残る天候でも行動する場合もあります。隊全体のモチベーションが低い時は、隊員同士、声を掛け合って雰囲気を和ませます。
C1を出発して、C2へ向かうルートを眺めて足が止まりました。荒々しく崩れた氷雪の急峻な壁が延々と続いています。高層ビルを想像させる氷壁に、先行しているパーティの隊員が小さな黒い点として取り付いています。初めて見たアイスフォールのスケールと、いつ崩壊しても不思議でないエリアの中で行動することの現実に直面し、無意識に「マジ?」という言葉が出てしまいました。可笑しいことに、パートナーも同じタイミングで「マジ?」と呟いたので、ふたりで笑ってしまいました。
天候の悪さも不気味な雰囲気を演出します。目の前の氷壁をひとつひとつ丁寧に登り続けます。固定ザイルは1本。万が一、ピッケルなど落下させてしまったら、下方の仲間に直撃します。高所順応だけでなく、ひとつのミス起こすことなく、確実で安全な登攀が無意識に続けられるよう、脳と体にしっかり覚え込ませます。
緊張ばかりが続いていては疲れてしまい、ミスを誘発させます。気心知れた仲間同士、声を掛け合って緊張を笑いに変えます。厳しい環境下で掛け合う仲間同士の言葉は、平地での掛け声以上に重みがあり、温かさを感じます。防寒装備やサングラスを装着しているため、仲間の表情は見えませんが、遠征仲間の良さを改めて教えてくれます。この関係がなければ、とても危険で苦しい環境のヒマラヤ8,000m峰に挑戦する覚悟は湧いてきません。
ヒマラヤ・世界第8位高峰マナスル峰(8,163m)遠征 vol.8 へ