登頂の翌日、いつも通りの体調です。疲れは残っていません。今日も1日、マナスル峰を楽しめそうです。しかし天候は予報通り良くありません。この日、C4を出発して山頂に向かった登山隊は、強風のため全員撤退したことを聞かされます。
今日は、C2、C1を通過し、夕方までにBCに到着するスケジュールです。荷物になってしまうため、山頂に向かう時の装備を着込んだまま標高差約2,000mをひたすら下山し続けます。このC3にはフリースで登ってきたほどなので、アイゼンを装着させているだけで汗が流れます。
本日はペアを組みません。準備が整った隊員から下りはじめ、ガスの中に消えてゆきます。標高を下げれば気温は上がります。標高4,850mのBCは、計算上ではC3の気温より温度差12度もあります。酸素濃度も比較になりません。
急ぐ必要はないため、滑落に気をつけながらゆっくりと下ります。理由はよく分かりませんが、ずっとフィックス・ロープを眺めながら下りていることに気がつきます。危険な場所は注意を払いながらひとりずつ時間をかけます。登りと違って順番待ちの渋滞となっても、長い休憩を兼ねて気長に待ちます。
これから悪天候になるため、C2、C1は、すでに撤収されており、誰もいません。マナスル峰本来の風景、雪原となっています。仲間の隊員とC1で合流しました。賑やかだったC1にふたりしかいません。積雪のため設営したテントの跡も残っていません。静かなC1は不思議な感じですが、これが本来のナイケコルの風景です。視界は良くありませんが、このままガスに包まれたマナスル氷河をふたりで歩いてBCまで下ることにしました。
C1からBCの区間は、雪崩の危険性は低くなりますが、氷河でも滑落の危険性は依然高いままなので、散漫になりがちな気持ちを整えます。クレバスを避けながら進むため、左右に大きく振られながらの下山となり、一生懸命に歩いている割にはなかなかBC方向へ進みません。
高所順応中は全く気にならなかったことから、やはり無意識にゴールであるBCに早く到着したいという気持ちが高まっていたのかもしれません。岩壁を下ればBCです。
ガスの中から、BC上部に設営された、我々のテントサイトが薄い灰色の点として見えてきました。ふたりで、遠くに見えるBCを背景に記念撮影をしました。BC滞在中、このBCに再び戻った時、疲労困憊で、どれ程ボロボロになった状態で帰ってくるか心配していましたが、予想に反して笑顔で戻って来ることが出来ました。凍傷はもちろんケガもありません。プジャを行った祭殿を通過してゴールです。
「戻りました~!」「ただいま~!」の声で、キッチン・シェルパがニコニコ顔で出迎えてくれました。個人テントに入って間もなく、日本語で「おめでとうございます!」の声と一緒におでんと登頂お祝いケーキが届きました。何も言えなくなりました。