〈※本記事は、2015年4月にフィールドに訪れた際のアーカイブレポートになります〉
「世界最高峰」この言葉は様々なシーンで表現されますが、伝統のある物語を感じさせてくれます。地球上で最も宇宙に近い世界最高峰から見上げた空、見下ろした地平線はどんな光景でしょう。ローツェ峰から眺めた世界最高峰は、どんな山容なのでしょうか。想像が山のように膨らんでゆきます。
エベレスト峰、ローツェ峰への登山初日は、飛行機搭乗から始まります。ひと昔のエベレスト峰遠征隊の苦労と困難さとは比べられません。小さな漁港のフェリーターミナルのような搭乗口で、離陸準備完了のアナウンスを待ちます。飛行機に運び込む装備一つひとつ、しっかり重量を計ります。飛行機での積載重量オーバーは洒落になりません。
「ひこうき」という表現にピッタリな機体です。離陸時の加速とプロペラ回転数の上昇音と振動に、体だけでなく気持ちの高ぶりも揺さぶられます。急上昇しながら、機体が螺旋を描くように大きく旋回します。眼下に広がるカトマンズ市街の美しいこと。タメル地区散歩で、ガサガサとした街と表現したことを反省します。エベレスト街道への移動手段の搭乗ですが、カトマンズ市街の遊覧飛行のようです。撮影することも忘れてしまう程、顔を窓にぴったりくっつけて、流れる風景に見惚れます。
これから向かう峰が見えます。標高8,000m峰に憧れる登山者にとっては夢の場所ですが、その憧れる場所で多くの方々が亡くなられています。観光旅行者でしたら、遊覧飛行のハイライトとして歓声を上げながら眺望を楽しむでしょうが、その峰の頂上を目指す登山者としては「怪我なく登頂」という思いを強くさせられます。視界から消えるまで祈るように見つめます。
標高2860メートル、世界一危険な空港とも表現されている「テンジン・ヒラリー空港(Tenzing-Hillary Airport)」に着陸。ルクラ村に到着です。山岳地帯の空港なので、今回のように天候が良い日ばかりではありません。視界の良い日、風が穏やかな日は貴重です。春季の登山シーズンなため飛行機も大忙しのようで、すぐに再びカトマンズへ戻る離陸の準備を始めています。
滑走路全長約450メートル、まるで空母の滑走路のようです。標高の高さと滑走路の短さを、離陸と着陸はこの急斜面でカバーします。離陸のチャンスは一度のみ、滑走路の先は崖となっています。この空港で最初に着陸・離陸したパイロットの気持ちを想像してしまいます。
滑走路を背に振り返ると、エベレスト街道が延びています。このルクラ村からエベレスト峰ベースキャンプ地(標高5,350m)までの標高差約2,500m、歩行距離約50kmをのんびり高所に体を慣らしながら歩き続けます。いくつもの村を訪ねながらのトレッキングの始まりです。
歩き始めたい気持ちを落ち着かせ、ランチを楽しみます。村の光景に惑わされてしまいますが、日本国内での標高を思い起こせば、日本アルプス名峰と同じ標高です。高所順応としての呼吸の方法に切り替えます。マナスル峰遠征時は、高所登山経験な豊富なリーダーからのアドバイスのお陰で、山頂まで頭痛すら感じさせない程、高所順応が上手く進みました。今回も高所に対して、謙虚な気持ちを心掛けて順応作業と体調管理に努めます。天候に恵まれて、スケジュール通り進んでいる気持ちからでしょう、ランチでの会話も途切れません。
エベレスト街道の玄関、ルクラ村は世界中から集まる全ての登山隊が出発する起点の場所でもあります。飛行機到着と同時に、ポーターたちが手際良く装備の仕分け、荷造り進めています。チームとしてテキパキと効率良く取り組まれているプロの仕事、眺めているだけで頼もしく感じます。
観光地でもあるため、素敵なお店が並びます。エベレスト峰山頂への第一歩は、お土産屋さん巡りから始まります。
お土産屋さん店街を過ぎて、ようやく歩き進められると安心して、トレッキングポールの準備を始めると . . . 。
子どもたちの楽しそうな声が聞こえてきます。ゴムホースを輪っかにしただけのシンプルな物ですが、子どもにとって「転がる物」「回る物」は、最高の遊び相手、万国共通の楽しさがあります。
遊んでいる様子をしばらく見物していましたが、遊び方も万国共通です。
こちらのお兄さんたちは、押し黙りつつも何やら対戦し合っているようです。そこに笑い声はなく、真剣勝負の雰囲気が伝わってきます。ルールを探るため、しばらく横で見物させていただきましたが。どちらが優勢なのか、劣勢なのか全く分かりません。ソロのバックパッカーでしたら、身振り手ぶりのジェスチャーでルールを教えていただいて対戦させていただくところですが、我々は8,000m峰を目指す登山隊の初日です、謎を残したまま先に進みます。
足を止めることはありませんが、エベレスト街道は魅力的な光景が続きます。行き交う多くの方々、街道沿いに住んでいる方々、挨拶しながら歩きます。子どもと目が合うと、恥ずかしそうに笑顔で挨拶されると嬉しくなります。歩き始めて一時間も経っていませんが、エベレスト街道の魅力を肌で感じます。
高所順応を兼ねてのトレッキング、急ぐ旅ではないので、素敵なカフェでの休憩も楽しみの一つ。ティーパックにポットからお湯を注ぐだけの紅茶ですが、休息を兼ねたお茶の時間、いただく甘い紅茶の美味しいこと。
帰路も同じ街道を歩きます。登山を終えた帰り道、この同じ風景がどのように想うのか想像しながら歩きます。歩きやすい道ではありますが、ここで捻挫してしまい登山が中断することも考えられます。足元にも気をつけつつ、街道の旅を静かに楽しみます。