南緯32度、日本との時差12時間。日本列島の裏側、地球儀をぐるりと半周回した場所、世界最長8,000kmアンデス山脈の旅へ。日本の地平線の下、南半球の星空(宇宙)を眺めながら、南米大陸最高峰アコンカグア峰(6,960m)山頂を目指します。
プエンデ・デル・インカ(2,770m)に帰ってきました。登山前と登山後では、やはり気持ちの変化でしょうか、何の心配もなく散歩の時間を満喫します。ただ、すっかり気が緩んでしまい、道路での歩きですら足取りが重く感じられるようになりました。
今晩、南半球から北半球へ帰る旅が始まります。風見鶏?が日本列島の方向を教えてくれます。
国境の峠に近いドライブイン。年末年始のドライブ旅行でしょうか、給油、食事、お買い物などで多くの車が立ち寄ります。大型観光バスが停まって、アコンカグア峰登山口の看板で記念写真を撮る旅行者の姿も。
お仕事中の長距離トラックも停まります。
チリ共和国〜アルゼンチン共和国を結ぶ道。海外をバイクで旅する場合、長期休暇が必要です。日本から船で運び込んだバイクでシルクロード(天山北路〜天山南路〜河西回廊)を旅したことでひと区切りし、バイク旅から離れました。しかし、このような気持ちのいい道を眺めているだけでその旅心が、再び芽生えてしまいそうです。博物館での天文研究室の仕事に就いている身ではありますが、いつでも発芽(行動)できる種(遊び心)が、しっかり残っていたことに嬉しくなります。
今日の散歩はカメラと予備のポジフィルムだけでなく、シュラフカバー持参です。気持ちが良さそうな場所を見つけたら、ごろんっと寝っ転がってお昼寝です。地球儀的に見ると、地球の下にピタッと張り付いて寝ているイメージです。
昨日、共同装備を運んでいただいた皆さんは、本日休暇のようです。こちらまで聞こえてくる鼻息から、美味しい草であることが伝わってきます。
昨日、下ってきた遠くアコンカグア峰まで続く道を眺めて思いにふけります。
凄まじい雪煙。カメラの望遠レンズで山頂付近を眺めると、その場所に自分自身が立てたことが信じられない程、恐ろしい世界が広がっています。登山者が用意周到に準備をしても、それは登頂の可能性を高めているだけで、自然をフィールドとしている登山は、気象条件が全てのことに対して最優先されることを改めて実感します。
今回の登頂は、運が良かっただけです。
山頂に向かうまでは、会う人全ての挨拶が「こんにちはっ!」に感じられますが、気持ちがすでに帰国に向けて整ってしまったのでしょうか、会う人全ての挨拶が「さようならぁ~」に思えてしまいます。
遊園地で一日遊んだ、夕暮れ時の小学生と同じ気分です。
都市に帰ってきました。日本国内でも旅先に博物館や科学館を見つけると、迷わず入館してしまいます。その行動は、海外でも変わりません。街到着と同時に、博物館へ直行です。
大航海時代、外洋には怪物が棲み、地球はテーブルのような平面と考えられ、地の果ては海が滝のようになっていると誰もが信じていました。たった500年前の時代です。
新天地を求めて旅した船乗りたちは、地図もない世界を航海しながらどんな心境だったのでしょうか。ひとつの模型を眺めているだけで、時間を忘れます。
航海の命綱は「星」です。天体を観測することで、星が道標となって航路を決めます。南半球の星座の多くは、その大航海時代の船乗りたちが作りました。星空散歩として、情緒的に眺める夜空とは役割が異なります。今晩眺めている夜空は、大航海時代の船乗りたちが眺めていた同じ星空です。日本でも万葉集、古今和歌集、新古今和歌集などにも星のことが数多く詠まれています。人間の文明程度の年月では、星空や月の姿は何も変わりません。
国や時代に関係なく、その先人たちと同じ星空を眺めています。その時代の文化に思いをはせながら夜空を見上げると、星を見ることが「天体観測」という理数系をイメージしてしまう言葉だけでは、その魅力を表現しきれません。「大昔の世界中の人々と同じ星空を今晩眺めている」、何も変わらない星々を毎晩見つめていても飽きない理由のひとつです。
次は、ヨーロッパ大陸最高峰エルブルース峰5,642m(ロシア連邦コーカサス山脈)を目指します。アコンカグア峰での各キャンプ地で星空を眺めていて、次回の海外登山では「天体望遠鏡を運び上げて、星空観望会を開催しよう!」と考えていました。山は宇宙に近い場所。その最高の星空を、世界中から集まった登山者と一緒に楽しみたい!南米大陸から離れる寂しさが、機内で地球をぐるりと半周しているうちに、ヨーロッパ大陸への楽しみに変わってゆきました。