同じBC滞在でも、停滞日と休息日では意味合いが全く違います。行動日が悪天候や雪崩のリスクが高いと判断されれば、BCで各自過ごします。今日中に終わらせていないと後々困るような宿題を残しているような気分で休息していても落ち着きません。
一方、滞在が予定されていた休息日はバカンス気分。修学旅行に例えると「自由時間・自由行動」です。山頂に向けて出発すると、BCへの戻りは6日後になります。その標高で過ごすだけで体力が消耗する環境なので、もはや酸素濃度が濃く感じられるBCで3日間ゆっくり静養することで、体調を整え、体力を回復させ、気力もしっかり充実させます。
各隊員、思い思いに過ごします。手作りの立派なほうきまで作って、狭い個人テントの大掃除に励んでいる器用な隊員。ぬるいお湯をかぶって洗髪している清潔な隊員。個人テントの前にミニ祭壇を作って、ひとりプジャを行う慎重な隊員も・・・。天候が安定している午前中は家事で大忙し。限られた水を使って衣服の洗濯、お布団(シュラフ)干しも忘れてはいけません。
テレビ、新聞、インターネット環境もないため、人間たちの生活で何が起きているか全く分かりません。情報から遮断された生活が心地よく、とても新鮮な気持ちになります。家事を済ませたら、カメラをぶら下げてBCを散歩します。
世界中から集まった全15チーム、同じ山仲間、目的は全員同じです。「こんにちは!」と日本語で堂々と(開き直って)挨拶して、様々な国のテントにお邪魔します。お茶をいただきながら、お話を楽しみます。
今回の遠征後のプランを聞いて、世界中をフィールドとした遊びのスケールの大きさに驚くばかりです。今まで知り合ったこともない生き方を過ごされている方々のお話は痛快で刺激的です。BCにバレーボールの本格的なコートを作って、遊んでいる隊も。8,000m峰BCでありながら、小石まで取り除かれて整備されているコートを目にすると、感心を通り越して感動すら覚えます。
シェルパたちも、楽しそうに休息日を過ごしています。好きな音楽を大音量で流して、みんなご機嫌です。シェルパの楽しそうな姿を眺めていると、幸せな気持ちになります。我々にとって登山は、趣味であり遊び。クライミング・シェルパたちにとっての登山は、生活のため仕事。
我々が安全な登山を続けられるようサポートする、ヒマラヤ登山のプロ集団。我々以上に危険で命懸けの仕事です。
テントの中で、読書をしていると「アップルパイを焼きましたので、どうですか?」驚くほど美味しそうな仕上がりを見て、キッチン・シェルパの粋な心遣い、サプライズに大喜びする反面、仕事とはいえ「ゆっくり休んで」と伝えたくなります。
我々の野営地はBCの上部に設営されています。この休息日の3日間、晴天が続くと判断した隊が続々と山頂に向けて出発してゆきます。隊が違っていてもその連帯感から、「頑張って!」「気をつけて!」「登頂して!」という気持ちを込めて握手で見送ります。
その一方で、夜9時頃、数日前に出発した隊員たちが続々とBCに戻って来る姿も。強靱な海外の隊員たちが憔悴しきって、棒立ちで歩く姿を目の当たりにすると、強者達ですらそうさせる世界に踏み込む順番と思うと怖くなり、BCに戻って来た時の姿を重ねると緊張します。
副隊長から、「特別大雪が降らない限り、明日、Go Up!」と報告された後、山頂へ向かう各ペアのパートナーが発表されました。明日、我々も山頂に向かう順番が来ました。
ヒマラヤ・世界第8位高峰マナスル峰(8,163m)遠征 vol.14 へ